この記事では、【雑学】フルーツの王様 ドリアンの匂いの秘密 を科学論文に基づいて紹介します。
皆さんはドリアンの匂いを嗅いだことはあるでしょうか。
私は以前、シンガポールに遊びに行ったときに、宿の隣にドリアン専門店が展開していたがために、就寝時に常にあの強烈な匂いにさらされるという地獄を経験しました。
そう、ドリアンといえば、あのなんとも表現し難い匂いが最大の特徴です。
私は口にしたことはありませんが、味は糖度が高く、フルーツの王様とも表現されるようです。
そんな強烈な個性をもつドリアンですが、最近の研究であの匂いの原因基盤となる遺伝子が特定されたようです。
今回は、「ドリアンの匂いの秘密」の雑学として、この論文を紹介します。
※当該論文はNature Genetics誌からフリーアクセスが可能です。
※以降の内容で示すFigureは、当該論文より引用したデータを一部抜粋・改変したものを記載しています。
Bin Tean Tehらを含むシンガポールのがん研究の複数グループによる成果のようです。
シンガポールの人がドリアンに着目するのはまだわかりますが、がん研究のチームが、なぜこの研究課題に取り組んだのか非常に気になります。
この記事の目次
ドリアンのゲノム配列の解読
ドリアンはフルーツの王様であり、特に東南アジアではよく食べられる重要な食物ですが、これまで遺伝子研究の対象とはされていなかった。
そのため、ドリアンの全ゲノム配列も解読されてはいなかった。
著者らは、ドリアンが果実としてどのような進化を遂げてきたのか、また何がその特徴たらしめているのかを洞察するために、シーケンス技術を組み合わせてドリアンのゲノム解読を試みた。
その結果、D zibethinus Musang Kingという品種のドリアンから、約45000の遺伝子が同定された。
その中には、蛋白・核酸代謝、防御応答、果実発達などに関与する既知機能を有する遺伝子群が含まれていた。
匂いの原因は硫黄化合物の代謝を制御する遺伝子群であった
次に、ドリアンの匂いに関連する遺伝子の分析に焦点が当てられた。
熟したドリアン果実の仮種皮(果実の表面部分)、茎、葉、根など、Musang King品種の様々な植物器官から発現したRNAをシーケンス(塩基配列を読み取ること)した。
その結果、ドリアン果実の仮種皮においては、その他の器官(茎や葉など)に比べて、硫黄代謝に関連する遺伝子群が有意に高く発現していることが明らかになった。
ドリアンの匂いの原因物質として、揮発性硫黄化合物(VSC)があることも最近見いだされており、今回得られた知見を支持するものと考えられる。
一方で、茎や葉などの器官においては、果実の仮種皮に比べて光合成関連遺伝子が有意に高く発現していた。
これは茎や葉が光合成経路を介してアミノ酸合成を行っている可能性を示唆している。
ドリアンの匂いは熟成と関係があった
植物の熟成においては、エチレンが重要とのこと。
さらに、このエチレン生合成は「YANG cycle」という経路が担っているようだ。
ドリアンの匂いの原因である硫黄関連遺伝子及び硫黄化合物は、この経路の中に組み込まれている。
このモデルに従うと、ドリアンの匂いに関連する硫黄化合物の生成が始まると、エチレン合成が促進され、熟成が進む。
つまり、匂いと熟成の時間的な発現タイミングは密接に関連しているように見える。
著者らはこのことに関して、ドリアンは、熟成に伴って非常に刺激的な臭気を発することによって、動物を引き寄せることで、種をより広範な地域に繁殖させる役割を持っていると考察している。
ドリアンのゲノム情報の応用可能性
今回の研究から、ドリアンの全ゲノム解読された(注:Draft段階)。
今後、この知見を用いてさらなる研究・応用へと発展する可能性が考えられる。
近年、ドリアンの急速な商業化により、価格の幅が大きく、果物そのものの信頼性(品質)を検証する方法がほとんどないような品種も現れている。
今回得られた高品質の全ゲノム情報は、例えば、重要な品種固有の特性(味、見た目、匂いなど)に関連するSNP(一塩基多型)を識別に役立つ可能性がある。
将来的には、迅速な品質管理を目的として、ドリアン品種の分子バーコード化が可能になるかもしれない(A遺伝子に欠損があったら、味が良くないなど?)。
見た目で判断できない品質を、ゲノム情報から予測できたら、より効率的で精度の高い品質管理ができそうだね!
遺伝学は、その種の進化の過程を推察できたり、あるいは特定遺伝子を改変することで新たな種を誕生させたりできる可能性があるので、過去にも未来にもアプローチできる凄まじい学問だなと感じます。
ドリアンの匂いに関連する物質として、硫黄化合物はすでに知られていたようですが、その生合成に関連する遺伝子、さらにはドリアン果実の仮種皮で特に強く発現していることを証明した点が新しいのだと思います。
この知見の応用可能性について触れられていましたが、例えば、強烈な匂いに関連する硫黄代謝関連遺伝子を機能不全にした改良品種ドリアンなど、作り出せたりしないのでしょうか。
それよりも「あの匂いがあってこそのドリアンだ!」といった意見もあるでしょうか。
ドリアンの匂いの秘密の紹介でした!